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​はじめに:試し読み

大人も子どもも、みんなが勉強して生きていく時代に

勉強の目的は、しくみを知ること

 

 いま、この本を開いたみなさんのなかには、お父さんやお母さんから「もっと勉強しなさい」といわれている人も多いのではないでしょうか。「けっ、勉強なんてしなくても生きていけるよ」と思っている人もいるかもしれませんし、「大人は勉強しなくていいよな」と思っている人もいるでしょう。

 

 ただ、それは大きな間違いです。

 

 みなさんが生きるこの時代は、みんなが勉強し、みんなで生きていく時代です。勉強するのは、子どもだけではありません。大きな会社の社長も、政治家も、医者も、弁護士も、料理人も、美容師も、八百屋も、体が勝負のスポーツ選手も、つねに勉強しないと生きていけません。みなさんのお父さんやお母さんは、そのことを知っているから、勉強しろというのかもしれませんよ。

 

 ではいったい、勉強はなんのためにするのでしょうか?

 

 勉強はテストで良い点をとるためにするものではありません。テストで良い点が取れるのは、あくまで勉強した「結果」に過ぎません。そうではなく、世のなかが、なぜこうなっているのかを考え、そのしくみを知ることこそ、勉強の本来の「目的」です。

 

 ですから、会社の社長であれば、どうすれば会社を大きくできるのか、社員が生き生きと働けるのかについて必死に勉強し、考えています。八百屋であれば、近くにあるスーパーではなく、自分の店でみんなに野菜を買ってもらえるようにするにはどうすべきかと知恵をしぼっています。

 

勉強はずっと続けていこう

 

 そして、いま、誰もがつねに勉強しなければいけないのは、世界がものすごいスピードで変わっているからです。インターネットなど通信技術の発達もあって、情報はすぐに世界中に知れわたります。一生懸命に考えたしくみでもすぐに通用しなくなるんですね。だから、つねに考えていなければならないのです。もちろん、考え続けるのは大変です。「なぜこんなふうになっているのか?」と問いを立て、その問いを追究し続けるのは疲れることですから。

 

 かつて日本には、いまほど深く考えなくても生きていける時代が、たしかにありました。30年ほど前までは「よくわからないけれども、なんとなくこうすれば生きていける」という生きかたが、たしかに存在しました。一流といわれる大学に進学し、大きな会社に就職すれば、車を買い、家を買い、ぜいたくしなければ老後までそのまま生きていけました。

 

 ところが、いま、そのような人生モデルは崩壊しています。この本のなかでもくわしく説明しますが、大学を出て、大きな会社に入っても、それで安心というわけではないのです。大きな会社であっても、倒産したり、他の会社に買われたりする時代です。老後どころか、就職した会社が5年後にどうなっているかがわからないような時代です。いま、日本の社会のあらゆる面で問題が起きているのは、しくみが変わっているのに多くの人が根拠なく「大丈夫だろ」と昔の感覚のまま働いているせいでもあります。

 

自分で決断できる大人になるために勉強しよう

 最近は「グレートリセットの時代」ともいわれています。従来の価値観がリセットされてイチからやり直さなければいけない時代である、という意味です。

これはみなさんにとっては大変な時代を意味します。価値観がリセットされれば、いままで正解と思われてきたものが正解でなくなるかもしれないからです。昔は良いとされた価値観と新しい価値観が入り交じった混乱状態がいまともいえます。

 

 こうした時代で頼りになるのは「生き抜く力」であるということを忘れないでください。生き抜く力とは、自分で考えて決める力です。なんの疑問もなくいわれたことに従うのではありません。自分で考えて決めるのです。そして、物事を判断するためには、社会がなぜそうなっているかを考えなければいけません。つまり、勉強が重要になります。

 

 この本ではみなさんがこれからの時代を生き抜くために考えて欲しいテーマを20取り上げました。すべてのテーマはみなさんの生活や将来に深く関係します。どれもが少しはインターネットやテレビのニュースで見たり、聞いたりしたことがあるような話題です。ロボットが進歩したら人間の仕事はなくなるのか? 会社に入ったからといって、ずっと雇ってはもらえなくなるのか? 年金はもらえなくなるのか? そうした初歩的なことから「なぜ」と考え直してみると、みなさんの未来の見えかたが変わってくるはずです。はじめから読んでもいいですし、もくじを見て気になるところから読んでみてもいいでしょう。登場人物たちのおしゃべりを読んだ後なら、脚注やコラムもよく理解できるでしょうから、あわせて読んでみてください。

 

 もちろん、なぜそうなっているのかを理解し、考えるには知識が必要です。ですから、この本は知識を身につけることも大いに応援しています。たとえば、なぜ、ロシアがウクライナに攻め込んだのか? ウクライナはなぜあれほど必死なのか? ヨーロッパはなぜ一国単位でなく、みんな(EU)でまとまって対応しようとしているのか? 本書で取り上げているこうしたいまのできごとは、歴史の教科書に出てくる第一次世界大戦や第二次世界大戦とつなげて考えると、これまでとは違う景色が浮かび上がるでしょう。つまり、いままで身につけた知識が新たな学びに生かされるのです。

 

 そして同時に、大人はみんな知っています。

 

 いま当たり前だと思われている知識が、意外とあっけなく、当たり前でなくなることを。「えっ」とおどろくかもしれません。しかし、それが世界の真理です。みなさんの身近な話ですと、「運動するときには水を飲むな」と、かつて学校の先生はいっていました。しかし、いま、そんな指導をしたら虐待で訴えられます。当たり前とはそのようなものなのです。ただ、もし世のなかの「当たり前」が変わったとしても、物事と向き合って考える力をみなさんからうばうことはできません。みなさんが18歳になっても40歳になっても80歳になっても、考える力は味方してくれます。考える力を身につけていれば生きていけます。

 

 私たちの身のまわりでなにが起きていて、それがなぜそうなっているのか? これからどうなりそうか? それでは、さっそく一緒に考えていきましょう。

 

2022年11月 栗下直也/ニューズウィーク日本版編集部

書影(帯あり)_13歳からのNW.jpg

​くらしから世界がわかる

13歳からのニューズウィーク

栗下直也 著

ニューズウィーク日本版編集部 編

​*

​定価:1,430円(本体 1,300円+税)

 

CCCメディアハウス

240ページ/並製/A5判/ISBN:978-4484-22225-7

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