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生成AIの時代に「誰にも書けない文章を書けるわたし」になるためのライター講座


新聞や雑誌の凋落だけではない。ウェブメディア繚乱、ライター人口は飽和状態、加えて精度の高い文章を書く生成AIまで出現したいま、かつてプロの営為だった「書く」の概念が、急速に揺らぎはじめている。


記者やライターから大きな反響があった文章読本『三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾』の著者で、朝日新聞編集委員の近藤康太郎氏は、しかし、「この時代をまったく悲観していない」と言う。「人間は、誰にも書けない文章を書けるわたし、になれるはずだから」。 唯一無二のわたしになる術をライター講座で指南するという。以下、「自分にしか書けない文章」を書くコツを『三行で撃つ』より転載する。



■まずは型:書けない記者1年生に伝えていること


型破りという言葉があります。前例を踏襲していない。斬新、オリジナルな表現。表現者である以上、いつかは「あいつは型破りだ」と言われたいものです。


一方、「形無し」という言葉もある。本来の姿をそこない、すっかり味をだめにし

ていることですね。型破りはいいんです。形無しはいけません。


ライターでまず覚えなければならない型は、なんと言っても起承転結でしょう。もとは漢詩の作法で、〈「起」で詩意を言い起こし、「承」でそれを受け、「転」で変化を与えて発展させ、「結」で全体を締めくくる〉と、「明鏡国語辞典」にあります。


ここでは、起をフックとしておきましょうか。ひっかけです。三行で撃つのですから、まずは目に留めてもらわなければならない。第1発が、起の解説と思ってもらって構わない。



■新聞・雑誌の文章は「起承」で終わっている


承は、起の説明です。丁寧にいきましょう。起の数行で、のけぞらせているわけですよね。そこに続く承では、この原稿でなにを語ろうとしているのか、簡潔に説明しなければなりません。だれが、いつ、どこで、なにをしたか。


 時、場所、登場人物、出来事の概要を説明してしまう。5W1Hと言います。「when ,where, who, what, why, how」。これが分かればいいんです。


これで終わりです。いや、ほんとうに。手を抜いているわけではないんです。新聞や雑誌の記事は、こ

れで終わります。ジャーナリズムとはそういうものです。


ジャーナル(journal)とはもともと日記、日報という意味です。5W1Hが入っていればいい。記者、ライターの、余計な感想などはいらない。事実だけを淡々と述べる。


注意して読むと分かりますが、新聞や雑誌は、たとえ長い企画記事であっても、承で終わっているものがほとんどです。転の練習をしていないんだから、まあ、仕方がない側面もあります。



■生き残るのは「転」を書けるライター


しかし、どうでしょう。こういう、承で終わるニュースや企画記事に値段がつく時代は、過ぎてしまったのかも知れません。いい、悪いを言っていません。どちらかというと、悪いと思っている。


ただ現実問題として、5W1Hの事実だけを淡々と述べる文章に、値段がつくことは、どうやら今後、起こりそうもない。いうまでもなく、インターネットの発達のせいです。


大手ニュースサイトはカネを払って新聞や雑誌記事を配信している。しかし、SNSはそんなことしてくれやしません。雑誌や記事をそのまま書き写したり、写真を撮ってアップロードしたり、考えてみれば泥棒みたいなことを、みんな、よくやりますよ。わたしだって何度もされている。


恥ずかしくないのかなとは思うが、それはともかく、何度も言いますが、いい、悪いではなく、この趨勢(すうせい)は止められない。人間は、せこい生き物なんです。


そこで、「転」の時代なんです。転を書けるライターが、生き残ります。もちろん、転を書いていようがなにをしようが、写メは撮られるし、書き写してアップされる。変わりません。


しかし、転を書けるライターには、それであっても注文が来ます。転を書けるとは、換言すれば、〈考えることができる〉ということです。



■考え抜くことでしか〈わたし〉らしさは現出しない


いまは、AI(人工知能)が人間の仕事をどんどん代替している時代です。ライターも例外ではなく、たとえばスポーツの試合の戦評などは、スコアブックを使って、AIが見事に書きこなします。人間と違って間違えもありません。


しかし、AIには、転を書くことができません。いや、AIだけじゃない。自分以外の他のライターにも、だれにも書けない。自分の転は、自分しか書けない。そこが最大のポイントなんです。


転とは、文字どおり、転がすことです。起で書き起こし、承でおおかたを説明した事象、この事象を、自分はどう見ているかを書く。そのことで、読者を転がす。


読者の常識を、覆す。読者が考えてもいなかった方向に、話をもっていく。拉致する。あるいは、自分が転がることです。飛び抜けた語彙(ごい)、破綻(はたん)した文章、なんでもいいから、なにか芸を見せてくれ。転がってくれ。


文章でもいい。ものの見方でもいい。どちらかで、意表を突く。できれば華麗なバック転が望ましいのですが、毎回そんなことはできないでしょう。であれば、でんぐり返しでもいい。文章か、ものの見方か、なにか見せてくれ。文章をそこまで読んでくれたお客さんに向けての、サービス精神です。


うまく転がることさえできれば、結、つまり結論は、おのずから浮かび上がってくる。指が勝手に動いて、自動的に書いてくれます。わが家に集う若い塾生には、そう、教えていました。



《お知らせ》【朝日新聞編集委員があなたの文章、ガチで添削!:近藤康太郎の『三行で撃つ』ためのライター講座】 目指すのは、誰にも書けない文章を書けるわたし。これからの時代を「書いて、生きていく」ための力を養います。 ◎ 講師:近藤康太郎(朝日新聞編集委員/作家) ◎ 日時:《全3回》2023年9月2日・9月30日・10月28日(土) ◎ 開催:CCCメディアハウス/オンライン ※アーカイブ有り ★ 詳しくはこちら


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